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Vol.00101■冬の思い出−季節は春 2005年9月16日
「ねぇ、ピッピ。ママの思ってることがわかるよね? ピッピとチャッチャはもうすぐここを出て、お家に帰るの。もうどこにも行かなくていいし、飛行機にも絶対乗らないわ。お庭があって、お外にも出られるのよ。鳥が鳴いてて、芝生もあるわ。いいところよ、早く見せたいわ。このまま連れて帰りたいけど、それはできないの。ママもピッピたちが帰って来る日をほんとうにほんとうに待ってるわ。だから、寒いだろうけど元気を出して、もう少しがんばって。ピッピはガンと闘って勝ったじゃない。今はひとりでお水も飲めるし、ご飯も食べられる。大丈夫よ、今度もきっと元気になる。そしてお家に帰ってきて。」

アイツはおいらを抱き、じっと目をのぞき込みながら心のなかでそう思った。おいらはアイツの言葉の、全部がわかるわけじゃない。アイツが頭の中で思ってることを見るんだ。これはおいらたちの交信と同じ。聞くんじゃなくて、見るんだ。アイツは鳥や緑の草、その上を歩いてるおいら、ソファーで寝てるおいら、ご飯を用意してるアイツの足元で、上を見上げて「ニャーニャー」鳴いてるおいら、なんかを思ってた。         (ニャンだろこの草?→)

「そうか、あんなとこに行くのか。」
おいらはアイツの頭の中のテレビを見ながら、そう思った。
「悪くないかもしれない。」
確かにガンのときと比べたら、ずっとマシだ。喰いたくないだけで、おいらはまだ自分で喰える。水も飲めるし、アイツの思ってることもわかる。たいしたことはない。あまりにも寒くて、どうかなってただけだ。寒いときは喰うんだ。香港のドリスのところでしたように・・・。

目が覚めるとあったかかった。アイツが頼んだので、おいらの電気毛布も2枚になってた。ポカポカする。ここへ来て初めてそんな風に思った。のどが渇いてたので水を飲む。隣にはご飯もある。冷めたイワシを喰ってみる。そばの缶詰も試してみる。変わり映えしない味だけど、喰える。もっと喰えそうだ。久々に何かを喰いたいと思った。

その後も毎日、毎日アイツらが来た。ある日、「あれ?きょうは来ないのか?」と思っていると、検疫所の長靴を履いた連中がおいらとアニキをケースに入れだした。見るのもイヤな飛行機に乗るときのケース。
「な、なんでこんなものに入んなきゃいけないんだ?」
と思った時、
「ピッピー、チャッチャー」
というアイツの声が遠くから聞こえた。

ケースの金網越しに光が差してきた。電気の明かりじゃない、もっと眩しい外の明かり。光の中に黒く立っているのは、小さいほうがアイツ、大きいほうは連れ合いだ。おいらを入れたケースはどんどんアイツらに近づいてく。
「そうか!ここを出るのか!」 

おいらの一番長い冬が終わった。(つづく)

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