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Vol.0107■どこからどこへ W 2005年10月11日
おいらは悪性リンパ腫というガンになって苦しんでた。でも、死にそうになったのはガンのせいじゃなかった。ガンを殺す薬のせいだった。薬はすごかった。どんどんガンを溶かした。ついでにガンじゃないものも溶かした。からだが焼けるように熱くなり、もうなにがなんだかわからなくなった。

おいらのからだは見る見る小さくなった。溶けていく。おいらは中から溶けていった。この苦しみが終わるんだったら、死ぬのも悪くないと思った。四つ足の世界に薬なんてものはないんだから、病気になったらみんな死ぬのさ。でも二歩足は違う。薬を使ってでも生き延びようとする。

でも、死ぬほど辛いんだったら、同じじゃないか。おいらはなにもかも終わりにしたかった。アイツも、アニキも、家も、ご飯も、どうでもよかった。いつものようにからだだけを残してどこかに行くこともできた。苦しみは、からだにくっついてくるんだから、からだを置いていけばいい。四つ足にはこういうことができるのさ。

でも、死ぬとなったら話は別だ。どこかに身を隠して、からだも一緒に消えなきゃいけない。どうしてかはわかんないけど、そうするもんなんだ。でも、外にも出られない、空の上のような家には消える場所なんかなかった。どこに行ってもアイツがくっついてきた。 (←生きてるのが不思議なくらいだったぜ)

もう歩けなくなってきた。おいらは消える場所を探すのをあきらめて、小さな箱のようなアイツが作ったベッドに入った。箱の入り口にはタオルがかかってて、ドアみたいになってた。外からはおいらが見えない。おいらも中に入ると外が見えなかった。

消える場所にしちゃあ、ずい分お手軽だ。こんな場所じゃダメなんだ。でも、仕方ない。おいらは身を横たえた。からだが波打ってる。そうしないと息ができなかった。溶けて、溶けて、もう二度と歩くことも、立ち上がることも、目を開けることもないだろう。

次に気がついたとき、おいらは花に囲まれたあの川のふちにいたんだ。(つづく)

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