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Vol.0111■どこからどこへ [ 2005年10月26日
からだが溶けてくような痛みは相変わらずだった。おいらの記憶はあったりなかったり。苦しさから逃げるためには、からだを残してどっかに行くしかない。元気なときはそれが自由にできたけど、あのときはあまりにも苦しくて、気持ちだけが勝手にどっかに行っちまってた。だから覚えてないことがいっぱいあるんだ。

でも、橋がかかってるあの川に行ったのは、1回だけだった。その後はどこに行ってたんだろうね。覚えちゃないけど、そんな遠いとこじゃなかったと思う。ふと気がつくと、アイツの背中が見えてパソコンをカタカタやってたり、キッチンの方で子どもと話したりしてたからな。

「死ぬのも悪くない」
と思ったのは、あの時だけだった。いなくなるために隠れる場所を探してたのも、あの夜だけだった。その後はじっとしてた。苦しさがからだから出てくのを待ってたんだ。苦しみよりも、おいらの方が長く続くってわかったんだ。

アイツにはわかんなかったみたいで、
「このまま熱が続いたら?」
「もう一生自分じゃ、食べられない?」
「目を覚まさなかったらどうしよう。」
とか、いろいろ心配してたぜ。

おいらには、
「死なないさ。」
と交信する力はなかった。目を覚まして、立って歩いて、トイレまで行ってベッドに帰る――。これを続けるのが精一杯だった。息をするのも苦しいときだってあったんだから、歩いてるなんてすごいだろ? ガンを溶かす薬を止めた後は、からだが溶けるより、治っていく方がほんのちょっとだけど早かったんだろう。  (今はこれでいい↑)

おいらは橋の向こうに行かなかった。死なないで家に戻ってきた。そしてニュージーランドまで来ちまった。わかんないもんだよな。おいらがいなかったら、アニキもどうなってたかわかんないぜ。おいらのガンとアニキの糖尿病は関係ないけど、なんとなくそう思う。アニキを思い出さなかったら、おいらも橋を渡ってただろうからね。

いつかは1匹であの橋を渡るんだろうけど、今はここでいい。それまではみんな一緒でいい。(つづく)


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