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Vol.0052■おいらが話せる訳−からだだけを残して 2005年3月31日
アイツは、獣医のところにからだを残したまま帰ってきたおいらに気づいた。自分では気づいてなかったみたいだけど、アイツはあの時、はっきりとわかってた。でも、「まさかね」って、わかったものを信じない。そして、「そんなことあるわけない。ピッピはドリスのとこなのに・・・」と、どんどん考え始めちまって、もう感じようとはしなかった。

もったいないよな、もうちょっとがんばれば交信できんのに。そうしたら耳にくっつけて話す電話もいらないし、おしゃべりも、口ゲンカも、紙に書いたものを目で見たりしなくてもよくなるのに。でも、二本足がほんとうにそうしたいのかどうかは、おいらにゃわかんない。電話したり、ベラベラしゃべったり、紙に書いたものを目で見るのが好きなのかもしれないからな。とにかく、面倒だとは思ってないみたいなんだ。

だから、おいらがアイツらを見る目を変えたといっても、普段の生活はなんにもかわんなかった。ちょっと、「交信できるかな?」と試してみた時もあったけどムダだった。アイツがそうしようと思わなけりゃ絶対ムリだ。そのうち、おいらの病気、悪性リンパ腫との闘病はどんどんひどいことになって、ドリスのとこで2回目の薬を飲んだ後は死んだも同然だった。おいらは死ぬつもりだったので、ほとんどなにも覚えてない。気持ちだけがおいらにもわかんないどっかに行っちまって、からだだけがアイツのとこに残っちまったんだ。

(←左が往診中のドリス。右は優しかった看護婦)

始めは優しかったアニキも、おいらが妙な薬の臭いをプンプンさせながら、家の中で弱々しくしてるのを見て、「ハァーーー」と吹っかけるようになった。でも、おいらは反応するほど力はなかった。ゆっくり横を通りすぎるだけだ。さすがにアニキも手を出してはこなかった。そのうち交信してもまったく反応のないおいらは、アニキにとっていてもいなくても変わらない人形になっちまったらしい。まるで家の中に四つ足が1匹しかいないみたいに、おいらを見なくなった。おいらも放っておかれる方がよかった。もうアニキを見る力さえなかったしな。(つづく)


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