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Vol.0108■どこからどこへ X 2005年10月14日
川のふちのおいら。なにかを思い出そうとしながら、それがなにか思い出せないまま、とことこ歩いてた、おいら。今ならわかる。思い出そうとしてたのは、自分が誰で、なんでここにいて、どこに行こうとしてるか、ってこと。でも、
「まっ、いいか。」
と、そのまま歩いてた。四つ足だからね、二本足みたいにずっと考えたりはしない。

一番思い出そうとしてたのは、ガンで死にそうになってたことかもしれない。歩くことも、立ち上がることも、目を開けることもあきらめて目を閉じたはずのおいらが、歩いてる。痛くも苦しくもない。からだが中から溶けてる感じもしない。なんでそうなれたのかを、一番思い出そうとしてたのかもしれない。

橋のところで、アニキのことを思い出さなかったら、あの橋を渡ってただろう。渡ったら、もうこっちには戻ってこれなかったと思う。アニキのことを思い出したから、アイツや連れ合い、家や子どものことを次々と思い出して、足が止まった。それがなければ、おいらはもう、ここにはいなかっただろうな。
(←アニキのことを思い出さなかったら・・・)

ニュージーランドを知らないまま、ガンで死んでたってことか。そうしたらアニキは1匹でここまで来たかな? アイツらはどうしてただろう? おもしろいよな、橋を渡るか渡らないかで、こんなにいろんなことが変わっちまうなんて。

思い出してみると、あそこはなんかヘンだった。花も川も、みんなおいらにちょうどいい大きさだった。いつもはなにもかも二本足用にできたものの中で生きてるのに、あの橋はおいらが歩くのにピッタリの幅で、二本足にはとても通れなかっただろう。まぁ、アイツらは水が好きだから、ジャバジャバ水に入って反対側に行ったかもしれないけど。

アイツの手が空から落ちてきたとき、とてつもなくデカく見えたのはそのせいだ。周りのものがおいらの大きさに合ってたから、見慣れたアイツの手がほんとうにデカく感じた。でも、抱かれてみるといつもの通りだった。おいらは橋の向こうには行かないで、元の場所に戻った。吐いても吐いてもからだから出て行かない苦しみも戻ってきた。(つづく)

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