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Vol.0109■どこからどこへ Y 2005年10月18日
アイツのどデカい手にすくい上げられて、おいらはいつもの部屋に戻った。からだの中が燃えるように熱い。そうそう、これこれ。おいらはガンだったんだ。なにもかも思い出した。花畑や川はあっという間に消えた。薄暗い。朝らしかった。

「生きてた。」
アイツが思ってる。
「死ななかった。」
おいらが思った。              (「死ななかったんだ」→)

この苦しみが終わるんだったら死ぬのも悪くないと思ってたけど、こうやって戻ってきちまった。さて、どうするか? 薄目を開けるのがやっとで、立てるかどうかもよくわかんない。寝てても、なにしてても苦しい。からだが溶ける感じは相変わらずだ。

「ありがとう。」
アイツの頭の中のテレビに、はっきりそう映った。交信する元気もないおいらにでもわかった。
「ありがとう?」

「死なないでくれてありがとう。もう死にたいよね、こんなに苦しくちゃ。でも、戻ってきてくれてありがとう。」 おいおい、どういうことだ。交信できんのか? 弱りきった頭の中で、おいらはいっしょうけんめい考えた。
「今になって交信できるようになったのか?」

「死ぬほど辛いだろけど、お願い、ピッピ。まだ逝ってしまわないで。ママに時間をちょうだい。こんなに長い間一緒に暮らしてきたのに、ママったらピッピのことなにも知らないって、やっと気づいたの。こんなにひどいガン、触ればすぐにわかったのに、ぜんぜん気がつかないで、ほんとうにごめんなさい。ママにもう一度チャンスをちょうだい。」

交信じゃない。アイツは勝手に頭の中で思ってるだけだ。おいらがそのテレビを見てるってことには気がついてない。でも、おいらにとっては交信も同じ。こんなにはっきりとアイツがおいらにメッセージを送ってきたのは、初めてだった。いつもはアイツが思ってることを横からのぞいて、なにを怒ってんのか喜んでんのか、テキトーに知っただけだった。

アイツとおいらは初めて向き合ったのかもしれない。(つづく)

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